ソトアソビ

八ヶ岳にある「遠い飲み屋」。
そこは本当に「遠い」飲み屋だった。

小屋泊プランの僕たち一行が、ノンビリと観音平に着いたのは11時。
すでに駐車場から溢れだした車が道路に長蛇の列をなしていた。
ラッキーにもちょうど一台が帰ったばかりと思われる空間を見つけ、車をすべりこませた。
下界では30℃を超えていた気温もここでは23℃。
出発したときは雲が日差しを遮り、ポツリポツリと雨しずくが落ちてきて、
涼やかなスタートとなった。




登山ビギナーの僕と娘のために、一行はなだらかな登りを
緩やかなペースで登りはじめた。

道すがら動物のフンや葉っぱを食べた跡を確認しながら進み、
途中の雲海という展望台の下で休憩。

ここから道は原生林へと入っていき、だんだんと僕も無口になっていく。





やがて押手川という分岐点に到着。
「結構来ましたか?」と尋ねると
「まだまだ半分手前ですね。」とのお答え。

ムムム…

やはり「遠い飲み屋」は「遠い」ようである。







休憩後、押手川の分岐点を左、編笠山に向かうコースをとる。
すぐに傾斜が急になり、ゴツゴツした火山岩が堆積した道を
一気に登っていく。

このころには足元しか見る余裕もなくハアハアという
自分の粗い息づかいしか聞こえてこない。






そんな調子で鉄の梯子を登ると、道端に「遠い飲み屋」の看板を発見。

「山頂まで本当にホントにあとチョット。頑張れ。冷たいビールあります。」

「冷たいビール」の文字に思わずニンマリ。
そうだ。そのために歩いてきたのだから頑張らねば。

ふりむくと流れた雲の先に南アルプスの山々も顔を（頭を？）出している。

熱帯林を抜け低木の間に吹く風にも後押しされ網笠山山頂に到着。






この日の山頂では360°の大パノラマとはいかなかったが、
流れの早い雲の隙間から、富士山、鳳凰三山、甲斐駒ヶ岳
そしてうっすらと北岳も確認できた。







そして反対側の眼下には「遠い飲み屋」の青い屋根が！

その時なんだか空を流れる雲がビールの泡に見えてきたのか、
みんな休憩もそこそこに岩ゴロの下り道をわれ先にと降りていくのだ。









こうして歩くこと4時間。
「遠い飲み屋」は本当に「遠い」飲み屋でした。

もちろん冷えたビールは最高でしたよ。

「遠い飲み屋」は「遠いけどまた行きたい飲み屋」になりました。